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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)15682号 判決

原告

株式会社パスコ

被告

有限会社鉄東運輸

主文

一  被告は、原告に対し、金一二七二万三八四〇円及び内金一一七二万三八四〇円に対する昭和五九年四月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金四一八〇万三二四〇円及び内金三八〇〇万三二四〇円に対する昭和五九年四月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

昭和五九年四月二六日午後九時五五分ころ、宮城県亘理郡山元町坂元字大森地内国道において、被告の従業員である訴外敦賀和夫運転の大型貨物自動車(札幌一一か五四六四号、以下、「被告車」という)が訴外谷黒亘運転の原告所有の普通貨物自動車(品川八八き一六一九号、以下、「原告車」という)に追突した結果、原告車は大破炎上し、原告車及び原告車搭載の測量器具等が全焼した。

2  責任原因

本件事故は被告の従業員である訴外敦賀和夫の居眠り運転又は前方不注視の過失により発生したものであり、当時、同人は被告の事業の執行につき被告車を運転していたものであるから、同人の使用者として、原告の被つた損害を賠償する責任がある。

3  原告の損害

(一) 車両損害 金一三七五万七六〇〇円

原告車は、道路を精密撮影して道路のひび割れ等を調査する特殊車両であり、原告が昭和四七年ころ購入したものであるが、以後入念な保守管理を受けてきたので、殆ど経年的な劣化や性能の低下を見せることなく極めて良好な状態に維持され、使用されてきたものである。ところで、同車両は特殊車両であつて市場価格がないため、一応法定償却による評価が想定されるものの、前記の極めて良好な維持使用状況からみて通常の法定償却による評価では到底不合理というべきであり、残価率修正の方法(再調達価額の三〇ないし五〇パーセント)を採用し、再調達価額の四〇パーセントを当該残存価額すなわち損害額とみなすべきである。しかして、原告車と同等の車両機材及び特殊カメラ等を再調達するに必要な費用は金三四三九万四〇〇〇円であり、その四〇パーセントは金一三七五万七六〇〇円であるので、同金額を車両損害として請求する。

(二) 設計調整試験費 金四九八万円

原告車は極めて特殊かつ高度に精密な機能が要求されるため、たとえこれと同等のものを再調達しても、直ちに実際の業務に使用することができず、約六〇日の設計調整試験を行つた後、初めて実用に供することが可能となる。この再調達から実用に供されるまでの試験期間に必要なフイルム代、人件費等は金四九八万円と見積もられるので、同金額を損害として請求する。

(三) 積載備品及び資材の損害 金八三万三七五〇円

原告車に積載していた工具及び備品並びにフイルム等の資材が焼損し、その価額は、工具及び備品が金一一万二八五〇円、資材が金七二万〇九〇〇円であるので、その合計額である金八三万三七五〇円を請求する。

(四) 個人の持ち物の損害 金六万七九七〇円

原告車の車内にあつた運転手個人の現金等の持ち物が焼損し、原告はその価額金六万七九七〇円を運転手に支払つたので、同金額を損害として請求する。

(五) 休車損害 金一七〇〇万円

原告は、その事業の一部門として、本件原告車のほか四台の同種車両を所有し、これによる道路調査の業務を営んできたが、本件事故により原告車を失つたためこれと同等の車両を再調達して実用に供するまでの約八か月間、残りの四台で受注分を消化することとなり、その結果、それまで順調に伸びてきた業績が停滞し、予期された利益を上げることができなかつた。すなわち、原告の経営数値を検討すると、第三六期会計年度(昭和五八年一〇月一日ないし昭和五九年九月三〇日)における道路調査部門の実稼動額は金五億八八四六万円であるが、第三四期から第三五期への伸び率一〇八・六パーセント(それ以前の伸び率はもつと大きい)から予想された第三六期の推定稼動額(第三五期の実稼動額の一〇八・六パーセント)は、金六億六二三二万円であるので、推定減少稼動額(推定稼動額と実稼動額との差)は金七三八五万円である。ところで、過去三期(第三三ないし第三五期)の実稼動額に対する利益率の平均は二三・四一パーセントであり、第三六期の推定稼動額に対する推定利益率も同程度と考えられるから、第三六期における推定減少利益額(推定減少稼動額の二三・四一パーセント)は金一七二八万円となる。このうち、金一七〇〇万円を休車損害として請求する。

(六) 事故処理経費 金一三六万三九二〇円

原告は、本件事故発生後現地に従業員を派遣して事後処理に当たらせる一方、社内でも原告車の突然の喪失に基づく業務の支障に対する対策等を協議することを余儀なくされた。これによる人件費相当の損害は、金八六万円に達しており、その他交通費、宿泊費、電話代、写真代、車両移動費用を合計すると、金一三六万三九二〇円になるので、同金額を事故処理費として請求する。

(七) 弁護士費用 金三八〇万円

よつて、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、前記3の損害合計金四一八〇万三二四〇円及び内金三八〇〇万三二四〇円に対する本件事故発生の日である昭和五九年四月二六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の事実は知らない。

3  原告車は昭和四七年に購入されたものであるところ、その法定耐用年数は七年とされている。しかして、原告車は本件事故時までに右法定耐用年数を約五年も経過したものであることに鑑みると、その残価率は原告車の再調達価額の一〇パーセントとみるべきである。

原告車が特殊かつ高度な機能が要求されるとしても、その調整のための費用は再調達価額の中に総合調整費として金一四三万八〇〇〇円が計上されているのであるから、この外に原告において設計調整試験を行う必要はない。

原告は原告車の外に同種の車両を四台保有していたこと、更に景気等他の変動要因も考慮に入れなければならないこと等を考え合わせると、原告の利益の減少をすべて本件事故に結び付けることは不合理である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証、証人等目録記載のとおり。

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがないから、被告は、民法七一五条により本件事故によつて原告が被つた損害(原告車及び原告車搭載の測量器具等が全損したことによる損害)を賠償する責任がある。

二  そこで、原告の損害について判断するに、成立に争いのない甲第三号証、証人菅谷唯男の証言により真正に成立したものと認められる甲第一、第二号証、第九号証の一、二、同証言により原本の存在及び成立の認められる甲第一〇、第一一号証の各一、二に同証言を総合すると、原告車は道路を精密撮影して道路のひび割れ等を調査する特殊車両であり、原告が昭和四七年ころ購入したものであるが、これを再調達するに必要な費用は車両本体(改造費を含む)につき金二一八九万四〇〇〇円、スリツトカメラにつき金一二五〇万円、合計金三四三九万四〇〇〇円であること、原告車は購入してから本件事故までに約一二年を経過しているが、原告において保守管理を行つていた結果、本件事故当時も現役の車両として前記業務に使用されていたものであること、損害保険業界においては定額法減価方式による残価率が再調達価額の三〇パーセント以下になつたものでも現役の機械として稼働している限りは当該機械の経済性を考慮してこれを三〇パーセントに修正する取り扱いがなされていること、以上の事実を認めることができる。そうすると、原告車が全損したことによる損害の価額は再調達価額の三〇パーセントである金一〇三一万八二〇〇円と評価するのが相当である。

三  原告は原告車の設計調整試験費として金四九八万円を請求するが、本件全証拠によるも右設計調整試験の具体的な必要性、その内容及び成果は明らかでないから、右請求を認めることはできない。

四  前記証言により真正に成立したものと認められる甲第五号証の一、二及び同証言によれば、原告車に積載していた工具及び備品並びにフイルム等の資材が焼損し、その価額は合計金八三万三七五〇円であると認めることができる。

五  前記証言により真正に成立したものと認められる甲第六号証及び同証言によれば、原告車の車内にあつた訴外谷黒亘所有の持ち物(価額金六万七九七〇円相当)が焼損したものであるところ、原告は、昭和五九年五月二四日、同訴外人に対し、右金額を支払つたことが認められる。したがつて、原告は、同訴外人の被告に対する金六万七九七〇円の損害賠償請求権を取得したものということができる。

六  前記証言によれば、原告は、本件事故当時、ひび割れ撮影専用車両を二台(原告車を含む)、轍掘れ撮影専用車両を一台、両機能の併用車両を二台保有して公共団体等から受注した道路調査の業務を行つていたものであるところ、本件事故によりひび割れ撮影専用車両である原告車を失つたため、本件事故時から代替車両が業務に使用可能となつた昭和五九年一二月ころまでの間は残り四台の車両で道路調査の作業をこなさねばならず、そのため原告の業務に支障が生じたことが認められる。しかしながら、原告主張の休車損害の金額はその主張自体からすべてが本件事故と相当因果関係を有するものということができず、また、本件全証拠によつても本件事故と相当因果関係を有する休車損害の金額を確定することができないから、原告の休車損害の請求は認めることができない。

七  前記証言により真正に成立したものと認められる甲第七号証の一ないし三及び同証言によれば、原告は、本件事故の事後処理のため、交通費金七万九八八〇円並びに宿泊、日当及び車両移動費等として金四二万四〇四〇円、合計金五〇万三九二〇円を支出したことが認められる。しかしながら、人件費については、これを本件事故による損害ということはできない。

八  弁論の全趣旨によると、原告は本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し相当額の費用及び報酬の支払を約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額等に鑑みると、原告が本件事故による損害として被告に対し賠償を求めうる弁護士費用の金額は金一〇〇万円をもつて相当と認める。

九  以上の事実によれば、本訴請求は前記損害合計金一二七二万三八四〇円及び内金一一七二万三八四〇円に対する本件事故発生の日である昭和五九年四月二六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本岳)

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